人間万事塞翁馬って言葉があるばってん
その場その場で、一喜一憂したっちゃ
どげんもならんって事やし、与えられた流れに
上手に乗っかって行ったら、それなりの道も開けるってのが
生きてきた人生のあたきの教訓やね
まぁ、ちっとは楽天的に考えて あんまし落ち込んだっちゃ
なんも始まらんし、前にも進まんって思うた方が気楽やし
自分にも、納得できる筈や
あたきは、正義感だけは ばりばり強かったけん
間違うた事は、上司でちゃ許せんかった
やけんサラリーマン時代は、上司と よう衝突しよった
早か話、会社は売り上げが上がりゃ 成績さえ上げときゃ
たいがいの事は、文句言わん
その為にゃ、今は売り上げの足しにもならん
古か顧客は、切り捨てたっちゃ良かって考えや
そげなんとが、あたきは許せんかった
かっては、世話になった顧客に手のひらば返すごたぁ事は
あたきの性格に合わんかった
親父の跡継ぎも、元々する気はなかったとい
一遍、ゆっくり話ばしたい言うけん
渋々、家に帰ってきたら、親父が身体の調子が良うなかけん
病院に連れて行ったり、送り迎えやらしよううちに
いつん間にか、親父の手伝いばしよった......
それが、今の人生の始まりたい
ばってん、嫌なお客に媚びたりせんで良かし
自分の気の済むごたぁ接し方ができたけん
そげな意味じゃぁ あたきに合うとったっちゃろうね
その頃、兄貴も親父の跡継ぎしよったけん
あたきは、全く別の分野の事ばしよった
それなりに実績もあげとったとばってん
数年後に、親父が死んで その十年後に兄貴も死んで
あたきに激動の嵐が吹き荒れたばい
それまで、親父の仕事やら した事なかったし
兄貴が居ったけん そっちは兄貴に任せとった
ばってん、兄貴も死んだら その仕事が愛おしゅうなってくさ
こんまま 親父の仕事ば絶えさせたらいかんごと思うて......
あたきの仕事が終わって 毎日12時くらいまで
ああじゃなか こげんじゃなかて
試行錯誤しながら練習ばしたとたい
ばってん だ〜れも教えてくれるもんもおらんけん
親父やら兄貴がしよった事ば 断片的に思い出して
自分なりのやり方も加えて どげんかこげんか
注文ば受けよった
そげな風やけん いいしこ失敗もしたし
やりそこのうて、客にがられた事も一遍や二編じゃなか
今、思うたら がられた客に育てられて今があるとのごとある
今は、親父や兄貴が苦手やった事も 出来るごとなっとった
どげんしても上手くいかんやった仕事ば
親父や兄貴の方法ば、がらりと変えて
全部あたき流でやった時
注文にきた客に「さすがプロですな〜」って
誉められて、涙が出るごとあったばい
それが、今に繋がったとやけん 人生わからんもんたい
それでちゃ、いよいよ店ば閉めるごとなって
墓参りに行って親父や兄貴に、謝りに行った時は涙が零れたばい
正義感で、上司と衝突せんやったら......
親父から誘われたっちゃ 東京に残って仕事ばしよったなら......
人間万事塞翁馬やね......
最後に、あたきの顧客は
1年に一遍くらいしか来ん、あんまし儲けにならん
20年30年の付き合いの人ばっかたい(笑)
そやけん、金儲けにゃ縁がなかったばってん 人には恵まれた
そこが、最高の人生やったね